読書メモ:「ファイナンス思考」(朝倉 祐介)

年始に読んだ本書の読書メモ。

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よくあるファイナンス理論の定義だけを紹介するだけではなく、ファイナンス的な考えの基礎とそれを取り入れた経営について俯瞰できる本で、初学者にとってはとても良い本であった。本書を読んでいく中で、バリエーションの方法や、スタートアップのみならず、上場企業を含めていかに企業価値を上げながら経営していくかについて興味が出てきたので、今後はそういった本も読んでいきたいと思う。

 

第1章 PL脳に侵された日本の会社とビジネスパーソン

・会社は、①事業の成果、②保有する経営資源、③会社の価値といったお金によって評価される。①事業の成果は損益計算書(PL)やキャッシュフロー計算書、②保有する経営資源貸借対照表(BS)で示されるのに対し、③会社の価値を解き明かそうとするのがファイナンスのアプローチ

 

第2章ファイナンス思考なくして日本からアマゾンは生まれない

・お金儲けという会社の直接的な目的から考えると、永続的な事業運営を目指す会社にとっては、より多くのお金を稼ぎ続けることが重要になります。「企業価値」とは、「その会社が将来にわたって生み出すと期待されるキャッシュフローの総額を現在価値に割り出したもの」ですが、会社は将来に渡って稼ぎ出すキャッシュフローの最大化を目指しているのです。ファイナンス思考では、会社の施策の意義を「その施策が将来にわたって生み出すキャッシュフローの最大化に貢献するのか」という観点から評価します。
・「フリーキャッシュフロー」とは、事業が生み出したキャッシュフロー(営業キャッシュフロー)から投資キャッシュフローを除いたものを指します。ここから借入金の返済や株主への還元などが行われるため、一般的には「フリーキャッシュフローが多いほど経営状態は良好である」とみなされ、企業価値を評価する場合にも重要な指標となります。

※ちなみに企業価値時価総額は時折混合されるが、時価総額=株式価値
企業価値時価総額(株式価値)+負債価値となる違いがある。また、時価総額とは主には上場会社を対象にしている。
※株価の決め方:新しく発行した株式を第三者(投資家)に買ってもらう際には、「その会社の価値はいくらなの?」という話が出てきます。会社の価値は「時価総額」で考えてください(「株主価値」や「評価額」と言われることもあります)。時価総額は「株価 × 発行済株式数」で計算します。株価の上げ方を含めて以下の記事を参考とする。
参考:https://coralcap.co/2019/12/seed-finance-02/

 

第3章 ファイナンス思考を活かした経営

本章では、ファイナンス思考に基づく未来志向の経営を実践している事例を紹介する。

ケース1:Amazon
A.外部からの資金調達:低金利の市場環境を活用し、十分な現金がありながらもデッド・ファイナンスでホールフーズ買収資金を調達
B. 資金創出:フリーキャッシュフロー最適化を重視し、事業成長やキャッシュ・コンバージョン・サイクルの徹底改善を通して資金を最大化
C. 新規の最適配分:自社株買いや配当といった株主に対する還元を抑え、市場リーダーになるために果敢に投資
D:ステークホルダー・コミュニケーション:市場リーダーの地位確立による株主価値の向上が本質的な成功と訴え、投資家から信任を獲得。

そのほか、リクルートコニカミノルタ関西ペイント、日立などのファイナンス思考を実践している企業の事例がいくつか掲載されている。

キャッシュフローは、現金が実際に移動したタイミングで発生します。したがって、商品が売れた際に、顧客が代金を迅速に支払う一方で、メーカーや卸への支払いに対して時間的に余裕を持つことができれば、キャッシュフローはどんどん大きくなります。...アマゾンは、キャッシュ・コンバージョンサイクルを徹底的に改善し、むしろ仕入れ代金を支払うよりも先に販売代金を回収することで、PLでの見た目以上に多くのキャッシュを創出することに成功しています。

 

第4章 PL脳に侵された会社の症例と末路

・売上の最大化こそが経営の最優先事項ととらえる売上至上主義は、マーケット環境よりも自社の業務数値が議論の出発点になっており、全体比の成長が目的化している会社で起きやすい。社内の業務席管理が利益ベースだと難しいことが、売上至上主義の進行に拍手をかけている

・会社を連結することによる利益のかさ上げとは反対に、すでに連結している会社を連結対象から外すことによって、見かけ上のPLを作ることも可能です。株式の評価方法には、取得原価と時価があります。取得原価とは、取得した時点の原価であるのに対し、時価とは、取得後の株式の値動きの結果を反映した評価額のことです。たとえば、A社が時価総額100億円の上場企業D社の株式を20%取得したとしましょう、数年度、D社の事業が500億円に到達したとします。このとき、A社が保有しているD社の株式の取得原価は20億円であるのに対し、時価は100 億円(500億円x20%)です。さて、現行の会計基準では、会社が保有する子会社、並びに関連会社の株式を通常は取得原価で評価します。したがって、保有している期間、他社の株式はBS上にも取得原価で計上されます。ところが、A社が保有するD社株式の1部を売却し、D社をA社の連結対象から外す際は、D社の株式を直で評価するという処理を行うことになっています。

・資本主義からの短期的な業績に対するプレッシャーを避けるために取られるのが、MBO(マネジメントバイアウト)です。MBOとは、経営者が株主から自社株式を買い取ることです。多くのMBOは、経営者の長期的な経営方針に賛同したバイアウトファンドなどが90%以上の資金を提供しており、彼らが新たな株主になっています。...会社が長期的な視点に立った戦略を支持する株主(経営者本人やバイアウトファンドなど)と共同で事業を育てていくため、短期的な視点を過度に気にする必要がありません。長期的な価値の創造に専念するため、目先の利益を圧迫するような大型投資といった、非連続な施策を実行しやすくなるのです。

 

第5章 なぜPL脳に陥ってしまうのか

・右肩上がりで継続的に市場が拡大する経済の下では、市場の伸びに合わせて生産規模を核だし、売上やシェアを伸ばすことが最適な経営方針。PL脳は、行動経済成長に最適化した思考形態だった。

 

特別付録:会計の基礎

・会社は株主と債権者から調達した資金を元手に事業を展開しますが、債権者に資金を返済した後に残るお金は、株主のものである、ととらられます。会社は資金を元手にお金を稼いで株主資本を増やし、さらなる事業展開のために投じたり、配当や自社株買いを通じて株主に還元したりするのです。この点で、株主資本から毎期、どの程度の当期純利益を得ることができているのかを確認にすることは、株主にとっては、自分の資金が有効に活用されているかどうかを確認する上で非常に重要です。

・一方、キャッシュフロー計算書は、実際に会社に出入りする現金そのもを対象として表現するため、解釈が介在する余地がなく、意図的に誤魔化すことが困難です。

 

・ROICがWACCよりも低い事業とは高い調達コストで資金を調達して、低い利回りの金融商品に投資している状態であり、ファイナンスから見れば、実質的に赤字の状態です。

 

・WACCとは、会社が債権者や株主に対して還元しなければならないお金の利率の加重平均、加重平均リターンとなります。

 

・負債コストは株主資本コストよりも安いものですが、過去に複数回、デッドファイナンスを行なっている場合、そのタイミングによって返済時期や利息など、条件が異なることは珍しくありません。その場合、資金調達のタイミングによって資本コストも異なりことになります。

 

・割引率とは、一定期間後に必ず元本や金利が返ってくる金融商品金利(リスクフリーレート)に、そのお金を得ることができるかどうかの不確実性(リスクプレミアム)を足すことによって算出します。リスクプレミアムの設定は貸し出す内容や対象によって変化する。この計算によって、年間あたりの何パーセントの割合で将来得るお金の価値を割り引いて考えるかという数値を算出する。仮に、割引率が5%である場合は、100万円/1.05(100%/5%)で95万2,381円が1年後に受け取ることができる金額となる。