これまでポーターによる「外部市場における競争論」や、バーニーらによる「内部資源に基づく競争論」が、経営戦略の2大セオリーとして君臨してきたが、本書はこれらのセオリーの次を以下の4つの観点から検討する書籍となっている。
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・実践行動としての経営戦略:戦略をいかに実行し、いかに実践するかというミクロな事象
・多層的境界の戦略:所有、統治、協業といった多層的組織境界、すなわち「外部と内部の中間領域」における関係性を戦略の中核に据える。
それぞれの観点のうち、特に印象に残ったものを中心にまとめていこうと思う。
※ちなみに、経営戦略の定義としては、「特定の組織が、何からの目的を達成するために、外部環境と内部環境分析から作り出した道筋」という定義が広く受け入れられる定義だという。
第2章 経営戦略前史
p.103 (ホーソン実験)これらの発見は、テイラーの科学的管理法では説明できない現象であった。物理的な作業条件の改善ではなく、労働者が注目され、期待されているという心理的要因が生産性を左右していたのである。すなわち、自分たちが選ばれて実験に参加しているという誇りと責任感、経営者や研究者が自分の仕事に関心を持っているという喜び、そして職場における人間関係の質が、組織の成果を決定的に左右することが示唆された。...これらの発見は、人間を機械の部品のように扱うテイラー主義への根本的な批判となった。人間は経済的インセンティブだけではなく、社会的欲求、承認欲求、帰属意識などの複雑な動機によって行動することが科学的に証明されたのである。
第3章 経営戦略の黎明期
面白い。フレームを自ら生み出すことで再現性を持って経営戦略コンサルを可能にする。
p.145 マッキンゼーは「グレイ・ヘア・コンサルタント」と呼ばれるような、豊富な経験や知見を有する年長者に依存していた戦略コンサルティング業務を、ビジネススクールの卒調整を中心とする若手でも実行できるように定式化し、それによる積極的な事業拡大を実現した。... 定式化した経営診断、数値と分析を重視した論理的な戦略検討、若手層の大量採用により、老練な熟練コンサルタントの技量に稼働に依存し、大組織化が難しかった戦略コンサルティングの事業領域において急成長を果たしたのである。
第4章 外部環境分析
産業構造を取り巻くマクロ要因を理解する上で、PESTLE分析(T=techology, E=environment)が重要。
p.226 効果的なPESTLE分析を実施するには、5つの段階的なアプローチが推奨される。
①政治的要因から始まり、組織に潜在的に影響を与える可能性のあるトレンドを特定する。
②チームとの議論を通うじてこれらの影響の組織への示唆を検討する。
③関連する発見事項を戦略的仮説として記録する。
④次のPESTLE構成要素に進む
⑤この一連のプロセスを6~12ヶ月ごとに繰り返し、絶えず新鮮な環境理解を組織に促す。
不確実性に備えるためには、リアルオプション戦略も有効である。
p.235 リアルオプション戦略の基本的な考え方は、新規事業を一度に巨額投資するのではなく、小規模な実証実験に投資して市場の反応を見る、技術標準が定まるまで待つ、有望なら追加投資して失敗なら撤退するといった戦略的選択肢を事前に設計することである。
リアルオプションは「情報を集めるために投資を待つ(待機オプション)」ことを正当化する。しかし、これが実務では「単なる決断の先延ばし」や「直面するリスクからの逃避」の免罪符として悪用されるリスクがあることや、将来の工場建設のために土地を確保し続けたり(手付金や賃貸料)、ライセンスを維持し続けたりなどオプションとして持ち続けるためのコストが存在することデメリットもある。
第5章 内部環境分析
BCGの米国市場の成功は外部市場の構造的な分析でまとめれているものの、それだけでは実態を単純化させてしまうのではないか?
p. 253 BCGレポートは、英国の自動二輪車産業の衰退を市場シェアと利益率の低下から分析し、その要因を競合他社と比較した際の技術開発、販売、製造におけ規模の経済の不足であると説明していた。特にホンダの成功については、母国市場での成功により規模の経済を享受し、その価格優位性を小型から中型、大型製品へ段階的に移転させた戦略成功例として位置付けていた。...しかし、パスカルはホンダの日本人経営陣6名に対する詳細なインタビュー調査を通じて、ホンダの米国参入は「誤算、偶然の産物、組織学習」によって特徴づけられるプロセスだったという。具体的には、ホンダは当初250ccと305ccの大型バイクで米国市場に参入しようとしたところが、機械的なトラブルに見舞われて失敗し、やむを得ず50ccのスーパーカブを市場に投入したところ、予想外の成功を収めたという経緯があった。
第7章 実践・行動としての経営戦略
経営者の感情は経営戦略や組織運営に大きな影響を与える。
p.350 高ナルシズムのCEOは、企業業績が目標を上回る状況において、自己顕示欲と注目を集めたいという個人的な動機から、より多くの企業買収を行う傾向がある。...こうした力強利意思決定を行う組織の経営判断の背景を検討する際には、その組織の責任者、経営者個人の資質や個性を踏み込んで理解する必要があるという理解が一般的となりつつある。重要なのは、戦略的意思決定が「認知的」であると同時に「感情的」な営みとして認識されるようになったことである。...ローレン・ゼッテルは、起業家を対象とした10日間の日記研究により、レジエンスが高い個人は日々の感情変動が低いことを明らかにしたこれは、レジリエントな個人が単に平均的により多くのポジティブ感情を経験するだけではなく、感情の自己調整を通じて安定した感情状態を維持することを示唆している。
第8章 多層的境界の戦略
エコシステム戦略とは、自社単独ではなしえなかった新たな価値を他社との連携によって可能にするものである。
p.405 一方、構造的視点は「ある価値提案を実現す流ために、どのような企業がどのように協力する必要があるか」という設計と管理に戦略的焦点を移したのである。テスラの電気自動車はエコシステムを例に例えると、同社は「持続可能な交通手段の実現」といいう価値提案から逆算して、バッテリー技術企業、充電インフラ事業者、再生可能えねるぎー企業...まで含めた協力構造を意図的に設計している。
第9章 非市場・制度戦略
昨今の経営戦略においては、非市場戦略も重要な重要となってきている。
その土台となったのが、1970〜80年代の経済学であり、シカゴ学派のジョージ・スティグラーを中心に「規制は公共の利益のためではなく、既存の有力企業が自らの利益を守り、参入障壁を作るために政府に働きかけて作らせるものだ」という考え広まる。
その後、スタンフォード大学ビジネススクールの教授であったバロンを中心に、「市場戦略(製品や価格での競争)」と「非市場戦略(法改正の働きかけや世論形成)」は地続きであり、同時に計画されなければならないと主張する学者が出てくる。
p.458 1990年以降、組織の外部環境にある政府規制や社会的規範といった市場以外の制度的要因が企業行動を大きく左右されることが認識し始めた。...たとえば、食品メーカーにとって肥満や健康問題は重要な「課題」である。再生可能エネルギー企業にとっては、経済産業省だけではなく建設許可を出す地方自治体や、紛争を処理する司法も、重要な「制度的主体」となる。バロンの研究は、これまで前提条件として扱われていたこれらの環境要因を、戦略的に操作するべき変数として再定義した。
p.463 第2の背景としては、非市場戦略が決定的に重要となる新たな競争戦略の出現である。バロンの非市場戦略概念は、1990年代中頃から世界経済の重要な参画者となった移行経済諸国・新興国において、極めて重要な意味を持った。これらの国々では公式な制度が十分に整備されておらず、非公式な制度も固有の特性を持ち、先進国とは異なる経済環境を形成していた。企業が取り巻く制度的環境が、企業の成功の可否に決定的な影響を及ぼす現実が、新興市場において顕著に現れたのである。
p.466 非市場戦略の重要性を決定的に示したのは、UberやAirbnbのような規制産業領域において急成長したプラットフォーム企業の成長だった。...同社は、各都市で影響力のある法律事務所やコンサルティング会社と契約し、地方議員へのロビー活動、住民を巻き込んだ草の根キャンペーン、そして、規制当局への挑戦的な訴訟戦略の組み合わせだ。