「日本経済の死角(河野龍太郎)」を読んだ

なぜ収奪されるのか? どう回避できるのか? 労働法制、雇用慣行、企業統治、イノベーション……日本経済の長期停滞をよみとく際の「死角」や誤算を白日のもとに晒し、社会が陥りかけている「収奪的システム」から抜け出す方途を明示する。予測的中率に定評のある最注目のエコノミストによる、まったく新しい経済分析の渾身の快著。 実質賃金・生産性・物価にまつわる誤算/人手不足と残業規制という死角/日本型雇用制は生き残れる/略奪される企業価値 …… 経済構造に関わるあらゆる謎が氷解する。

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第1章 生産性が上がっても実質賃金が上がらない理由
賃金が上がらない原因として、以下のように挙げているが、そもそもこの問題の背景には1990年代末から2000年代初頭の金融危機において、銀行が不良債権の処理に追われ、企業への融資を引き揚げる「貸し渋り・貸し剥がし」が多発し、銀行に頼らず、手元のキャッシュ(内部留保)だけで自社を守るしかない」という自衛意識が定着したことも忘れてはならない。

p.39 生産性が上がっているにも関わらず、企業が実質賃金を抑えこむから、個人消費が低迷しているということです。それゆえ、企業は国内で売り上げが増えませんから、採算が取れないため国内の投資の投資が抑えられ、投資を行うとしても海外ばかり、となっているのです。

消費税でもし増加分を賄っていれば、増税によって非正規労働者は増えなかったかもしれない。

p.58 それまで多くの場合、従業員のほとんどが正社員として雇われていましたが、アウトソーシング(外部委託)が一般的となり、良好な雇用機会は減っていきました。この結果、経済成長の恩恵が一部の人々に集中するようになりました。...日本で非正規雇用が増えたのは、2000年代の小泉純一郎時代の社会保障制度改革も大きく影響していることを付け加えておきます。当時、高齢化で膨らんだ社会保障費の財源を、日本政府は、現役世代の被用者の社会保険料の引き上げで賄いました。被用者の社会保険料の増大は、企業にとって、正社員の人件費の拡大につながります。このため、人件費の抑制を最優先する企業経営者にとって、社会保険料増大は、正社員の拡大を抑え、非席雇用を増やすインセンティブとなってしまったのです。意図してなかったとはいえ、政府の行動が非正規雇用の増大を助長したわけです。

日本ではアメリカのように柔軟な解雇が法的に認められていない背景には、戦後の労働運動や最高裁判所の判例を通じて形成された解雇権濫用法理という強力な法原則が存在する。アメリカの多くの州が採用する、雇用主も労働者も理由なくいつでも解雇・退職できる随意雇用の原則とは異なり、日本では労働基準法や労働契約法に基づき、解雇には客観的に合理的な理由と社会的相当性が厳格に求められる。これらを欠く解雇は「権利の濫用」として無効とみなされるため、企業は実質的に労働者を容易に解雇できず、終身雇用を前提としたメンバーシップ型の雇用慣行や、裁判における厳格な解雇回避努力の義務が日本独自の雇用社会を形作ってきた。

一方、このような従来型のの会社が人を守る・辞めさせない代わりに転勤や配属も言いなりになる(メンバーシップ型)」という暗黙の契りが限界を迎えてはいる。政府や経済界は、職務内容を明確にしたジョブ型人事への移行や、成長分野への労働移動をスムーズにするためのリスキリング支援に舵を切っており、会社にしがみつかない多様なキャリア選択を後押しする動きが強まっている部分もある。


第2章 定期昇給の下での実質ゼロベアの罠

p.79 ゼロインフレのもとで、ゼロベアが大きな不満もなく、大企業の社員に広く受け入れられてきたのは、継続雇用が約束されたからだけではありません。昇給、昇格によって、毎年2%弱の賃金上昇が日本の長期雇用制に組み込まれているからです。大企業の正社員にとっては、ベースアップがゼロであっても、年功序列のもと、右肩上がりの賃金カーブに沿って、毎年2%の昇給が続きます。

 

第3章 対外直接投資の落とし穴
海外ビジネスへの拡大に対する批判

p.103 2000年代前半から、経済産業省を中心に、日本政府は人口減少で売上減少で売上増加の期待できない日本市場に頼るのは得策ではなく、売上拡大の機体ができる海外でのビジネス拡大に注力するように推奨してきました。...1つ目は、これまでの繰り返しで恐縮なのですが、そもそも前提が誤っているということです。国内の売上が増えないのは、3割も生産性が上がっている企業部門が実質賃金を低く抑え込み、個人消費が低迷しているからであって、国内投資の採算が取れないのも、そのためです。企業自身がその原因を作っているのです。過去四半世紀に起こった人口減少は、深刻な事態ではありますが、売上という点では、必ずしも致命的な要因ではなかったはずです。国内売上低迷の主因を人口減少とするのは不適切です。 

2つ目は、1つ目の裏返しになりますが、海外投資に注力すればするほど、国内人的投資や設備投資がますます疎かになって、「合成の誤謬」が助長される点です。海外での儲けが、国内の実質賃金の増加や国内投資の拡大に全くつながっていないだけでなく、儲からない国内では、コストカットばかりが注力され、それが縮小均衡を招いてきました。いずれにしても、海外からの投資収益が膨らみ、企業業績は過去最高を記録し続けていますが、国内の人件費はほとんど増えていませんし、国内経済への恩恵は乏しいと言わざるを得ません。名目賃金はようやく増え始めたのですが、インフレにはなかなか追いつけず、実質賃金の減少がどうにか止まったのは2024年半ばでした。

3つ目は、海外での生産が増える一方で、それが国内の生産現場での活動に全くつながっていないため、国内でのイノベーションの機会が損なわれていることです。生産現場を持たなければ、創意工夫は追求されませんし、アイデアの交配も生まれません。イノベーションが起きないので、国内の生産能力の増加にはつながりません。いや、むしろ生産能力が縮小傾向を辿るという悪循環が続いています。人手が足りないから、生産能力を増やさないと言いますが、定型的な業務に関しては、それこそロボティックスやソフトウエアで対応すれば済む話であって、国内に生産現場を持つことで、非定型的な業務の課題に直面し、それを解決することが、新たなビジネスやイノベーションの源泉になるのだと思われます。 もう少し詳しく言うと、国内にこそ、単なる自動化やコストカットには留まらない、限界生産性を高めるようなイノベーションの潜在的なチャンスが存在します。もともと、製品やサービスの品質に対して、世界で一番要求水準が高いのが、日本の消費者でした。高齢化によって需要構造は大きく変わりましたが、企業は変貌した需要を取り込む努力を怠っているのです。 少子化からゆぬ企業が、かつての日本社会がまだ若かった頃に成功した古いビジネスモデルを後生大事にし、アジアなどの新興国で適用しようとして、海外進出を進めましたが、それは単に古いビジネスモデルの使い回しに他なりません。これでは、新たなビジネスモデルが生まれないのも当然でしょう。

一部主張に対して理解ができるものの、「海外で生産を増やすと国内の生産現場が失われ、イノベーションの機会が損なわれる」と主張されているが、実際にはグローバル企業が海外で得た収益や知見を、国内の研究開発(R&D)や本社機能、最先端のDX投資に集中させている例も数多くある。海外進出=国内の空洞化・イノベーションの喪失と決めつけるのは短絡的ではないだろうか。

第4章 労働市場の構造変化と日銀の2つの誤算

p.152 日本では、景気拡大局面において、正社員が残業することで、業務拡大に対応してきました。そうした柔軟な労働供給の調整が日本経済に隠れた強みでありました。しかし、リベンジ消費やインバウンド消費で需要が急回復する中、残業時間を増やすことができず、サービスの追加的な供給ができなくなったために、企業は価格引き上げで対応するしかありませんでした。とりわけ飲食業や宿泊業など、労働集約的な部門では、稼働率を上げようにも、人手不足がボトルネックとなってあげられず、インバウンド消費など、強い需要に直面した企業が価格引き上げで対応したのだと思われます。

 

第5章 労働法制変更のマクロ経済への衝撃

p.183 さて、週48時間から週40時間労働性への移行は完全実施まで6年の長い時間をかけたと言っても、20%も労働時間が減ることの日本経済へのインパクトは甚大であったはずです。本来、10~20%も労働時間が減る場合、時間あたり実質賃金が大きく上昇するため、ユニットレーバーコストの大幅な上昇や資本収益率の大幅な低下を避けるには、10~20%程度、生産性を引き上げなければなりません。しかし、それはまず不可能でしょう。


ちなみに労働時間の短縮は別に日本に限った話ではなく、世界的にもみられた動きでもある。例えば、アメリカではいち早く、世界公共の頃に深刻な不況と大量失業の中、限られた仕事を多くの労働者で分け合う(ワークシェアリング)という発端や、自動車王ヘンリー・フォードがちくいち週休2日を導入した流れを受け、1938年に「公正労働基準法(FLSA)」が制定され、週40時間制が連邦法として原則化された。

第7章 イノベーションを社会はどう飼い慣らすのか

ここでは、より良い日本経済を目指すためにイノベーションが必要とした上で、どのような類のイノベーションが歓迎されるのかをノーベル経済学賞のダロン・アセモグル氏の研究を紹介しながら解説している。

ちなみに、ダロン・アセモグルの研究におけるイノベーションは、主に「自動化技術」と「新しいタスクの創出」という対照的な2つのタイプに分類される。

前者の自動化は、これまで人間が担っていた作業を機械やAIに置き換えることで生産性を高める一方、労働者をその仕事から締め出す「置き換え効果」をもたらし、格差拡大の原因となり得る。これに対し後者は、人間が比較優位を持つ全く新しい役割や職種を生み出すものであり、失われた労働者の活躍の場を再び取り戻す「復元効果」を働かせる。

アセモグルは、近年の技術革新がコスト削減を目的とした自動化に偏りすぎている点を問題視しており、社会と経済の持続的な繁栄には、人間を置き換えるのではなく新たなタスクや能力の補完を生み出すイノベーションのバランスが不可欠であると説いている

「開戦前夜」を観た

映画『開戦前夜』|全国にて大ヒット上映中!

1941(昭和16)年4月、真珠湾攻撃の8カ月前。官僚・軍・民間から選りすぐられた若きエリートたちが、内閣総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」に招集された。彼らに与えられた任務は、“模擬内閣”を結成して日米が開戦した場合の戦局をシミュレーションし、その結果を内閣に報告すること。宇治田を始めとするメンバーたちは、国家機密レベルのデータを駆使した激烈な議論の末、「日本必敗」という衝撃的な結論にたどり着く。しかしエリートたちが導き出した敗北の予測は、時代が放つ得体の知れない空気にのみこまれていく。kaisenzenya.com

・フロントラインに匹敵するくらいの良さだった。日本軍の戦況に対しての楽観視、絶望的な日米関係、正しいことが言えない文化など、当日の様子がありのまま伝えってきた。
・一方、池松壮亮さんもインタビューで答えていたが、読みきれない戦況、予測できない石油などリソース戦などは当時の話だけでななく、まさにロシアーウクライナ戦争にも通ずる話ではあった。
・ファクトベースでの分析であると、日本は米国との戦争を始めるべきではないとしつつも、踏み込まざるを得なかったのは、無条件降伏をすることでこれまで大切にしてきた国体の維持を放棄することを恐れてのことだったらしい。当日の天皇がいかに国政や精神的支柱として大切だったのかがわかる。
・戦略が間違っていると、いかなる実行があったとしても失敗する。今回でいうと、軍部や政府の見通し間違っていると、いかに最前線でもがいたとしても徒労に終わってしまう。これはまさに企業経営にも言えることだと思った。

「ネットワーク・エフェクト(アンドリュー・チェン)」を読んだ

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本書で扱うのは、ネットワーク・エフェクトとコールド・スタート問題という二つのキーワードである。

ネットワーク・エフェクト(ネットワーク効果)とは、製品やサービスのユーザー数が増えれば増えるほど、そのサービス全体の価値や利便性がさらに高まる現象のことを指す。電話やSNS、メルカリなどのC2Cプラットフォームが典型例で、利用者が少ない初期は価値が低いものの、ユーザーの増加に伴って利便性が二次関数的に向上し、それがさらなる新規ユーザーを惹きつけるという「自己強化ループ」を生み出す。

一方、コールドスタートとは、ネットワーク効果を持つサービス(UberやSlackなど)の立ち上げ期において、ユーザーや供給者が存在しないために製品価値がゼロになり、「誰も使っていないから、誰も使おうとしない」という鶏と卵のジレンマに陥る現象を指す。元Uberのグロース担当トップであり現a16zパートナーのAndre Chengは、この冷え切った状態を打破して爆発的な成長へ導くプロセスを「コールドスタート理論」として体系化した。

この理論では、特定の狭いエリアで熱狂的な最小単位のネットワーク(アトミック・ネットワーク)を力技で構築する初期の「コールドスタート」から始まり、成長が自走する「ティッピングポイント」、加速する「脱出速度」、成長痛を迎える「天井」、そして強力な競合障壁となる「モート(堀)」へと至る5つの段階を経て、サービスを軌道に乗せる戦略が定義されている。


第1章 ネットワーク効果

p.34 ネットワーク効果の「効果」の部分は、その製品が使う人が多けば多いほど価値が増すことを示す。価値の増加は、高いエンゲージメントや成長率の増加として現れる。立ち上げ当初と比較すると、わかりやすいかもしれない。サービスを開始したばかりのYouTubeには動画がなく、視聴者にもクリエイターにも価値がなかった。それが今では20億人近いアクティブユーザーがいて、毎日10億分もの動画が視聴されている。すると、クリエイターと視聴者、そして視聴者同士の繋がりによるエンゲージメントが生まれる。多くのユーザーが利用することで、ますます利用されるようになる。

第2章 コールドスタート問題
ミニマムで良い体験を作る閾値を定める。

p.075 (slack)は登録するだけではダメで、実際にチャットする必要がある。そしてある閾値、スラックの場合はおよそ2000通のメッセージをやりとるすると、ユーザーは定着して製品を使い続けるようになる。
「どういう企業が定着し、どういう企業が定着し、どういう企業が定着しなかったのかを調べたところ、2000通のメッセージをやり取りしたチームはスラックをしっかり試してくれたと言える。2000通のメッセージをやり取りしていた顧客の93%は今でのスラックを使い続けてくれている。」この考え方は、スラック以外の成否にも適用できる。ユーザーが良い体験をするにはどれくらいの規模のネットワークがひつゆおか。ネットワークの規模をX軸に、重要なエンゲージメント指標をY軸にしたグラウを描いてみると良い。ウーバーの体験を図式化すると、基本的にはドライバーの舵が多ければ多いほど、待ち時間は短くなって乗客の体験は向上する。ただし、ドライバーの数があるレベルを超え、到着予定時間が2分、1分になっても乗客の体験はそれ以上には良くならない。

ハードサイズ=供給側をまずは抑える。

p.105 マーケットプレイスの「コールドスタート問題」を解決するには、まずクリティカルマスに到達するだけの供給側のユーザーを集めなければならない。イーベイならコレクター品の売り手、エアビーなら部屋を貸し出したい人たちだ。YouTubeの場合は動作製作者だろう。

 

第3章 転換点
招待制がネットワーク構築に重要。一方個人的には招待をするためには、紹介するコストを上回るなにかしらのインセンティブ設計をしないと難しいと思う。例えば、メルカリなどECサイトでよくあるようなポイント付与の両面報酬を作るなど。

p.142 招待制は注目を集めるための手法だという人がいる。バズり始めて新製品の話を聞きつけ、SNSに招待してほしいと投稿する人が増えるからだ。招待制は、正式なサービス開始前にバグ修正やインフラ整備の猶予期間を得る方法だという人もいる。どちらも正しいが、招待制の本当の価値はもっと別のところにある。招待制はユーザーのコピー&ペーストのようなものなのだ。最初に特定の人たちを集めると、彼らが友人を招待してくれる。そしてネットワークが自らをコピーするように広がっていくのである。


第4章 脱出速度

p.192 ウーバーのオペレーションチームは継続的に想像力を発揮している。ウーバーではどのとしでサービスを立ち上げるときもコールドスタート問題に直面する。そのため各都市のオペレーションチームが現場で思いついたアイデアを素早く試せるよう、自立分散型の組織体制をとっていた。各チームの目標は、それぞれのネットワークで転換点を超えることだ。チームがよく使っていた施策は、サービス開始時に地元の有名人「ライダー・ゼロ」(その地域で最初の乗客)に任命して、地元メディアに報道してもらう方法だ。


第5章 天井
表示するコンテンツを厳選する。

p.324 動画がかなり増えてから、面白い動画を見つけやすくするためにYouTubeの設計を見直した。最初に人気トップ100の動画を日、週、月の順に並べ替えるページを用紙、国別に閲覧できるようにんした。運営側が管理したのは、トップページだけだ。ここには10本の動画を選んで掲載している。ドキュメンタリーやセミプロが制作した優れたコンテンツを中心に選んでいた。ユーチューブのページを訪れるユーザー、特に広告主に「素晴らしいコンテンツがある」と印象付けるためにね。

 

第6章 参入障壁
不特定多数のユーザーを広告モデルによって集めてくることによるリスク

p.372 ビッグバン型の立ち上げに問題点は2つある。ひとつは広告では理想的なネットワークは作りづらいことだ。メディア掲載、記者会見、広告はうまくやれば多くのユーザーを獲得できる。だが、対象ユーザーを絞りきれないことが多い。広報活動ではさまざまなユーザーが集まるが、製品を使い始めてもユーザーの周りにネットワークができなければ離脱してしまうのである。

 

 

「テクノロジカル・リパブリック(アレクサンダー・C・カープ)」を読んだ

パランティア・テクノロジーズ共同創業者が書いた本書は、テクノロジーはマッチングアプリやXのようなSNSではなく、国防など社会に差し迫った課題の解決に使われるべきだと主張する。

テクノロジカル・リパブリック 国家、軍事力、テクノロジーの未来www.maruzenjunkudo.co.jp


元々、パランティアはどういう会社かというと、国家をクライアントとして、テロリストのネットワーク検知、戦況のリアルタイム分析・予測できる行動なBIツールを提供しているシリコンバレーで生まれたインターネット企業である。

また、創業者のアレックス・カープは、ドイツのフランクフルト大学で、20世紀を代表する哲学者・社会学者であるユルゲン・ハーバーマスの系譜(フランクフルト学派)に師事し、ネオ・マルクス主義などの社会理論で哲学の博士号を取得しており、プロダクトの根本思想としても、人間の理性を補助輪としてのデータや技術であるべきとして、理性を重視する人間中心主義的な考えが元になっている。

第1章 さまようシリコンバレー
テクノロジーの本来の役割。

p.27 本書では、ハイテク産業には自分たちを育てた国に力を貸す義務があるということを訴えたい。ハイテク産業とくにソフトウェア産業は公共の利益に寄与することをもっと考え、国との信頼関係を再構築するべきだ。そしてもっと大きな視点から、技術に何ができるのか、何を実現するべきかを構想してほしい。一方、政府には国民に福祉と安全保障を提供する責務があり、それを引き続き果たすためには、民間から、とくにイシリコンバレーから力を借りる必要がある。

第2章 人工知能の開発
テクノロジーの発達を進めるべきか。また、そのリスクはなんなのか。

p.36 原子爆弾の発明から、80年近く経ったいま、私たちはコンピューター科学においてあの時と同じような科学と倫理の重要なきろに立たされている。能力と潜在性がハックリわかっていない技術をこのまま開発していいのか。いつの日か人間に優越し人間を脅かしかねない超高度なAIの開発は抑制さらには中止するべきなのか。それとも、超高度なAIが国際政治を平和と導き、核兵器開発に終止符を打つ可能性に欠けて、実験をもっとに自由にやらせてよいのか。

第4章 核の時代の終わり

p.79 成長中の企業の創業者たちは果敢にリスクを取るつもりだと口にするものの、社会的あるいは地政学的に重要な問題の解決に投資する段になると、往々にして慎重な姿勢を終止する。別のアプリ開発ができるのに、地政学的な難局に足を突っ込んで倫理的な泥沼論争を招くことはしない。彼らがやるのは結局アプリ開発ばかりだ。アメリカはソーシャルメディア帝国になり、人々の承認欲求を組織的に事業化・収益化し、仲間からの気まぐれな行為と小jにんを渇望す若者を餌食にして操作する。そうやって、文明全体の努力とリソースの大部分をつまらないことに向かわせるのだ。

第7章 糸の切れた凪

p.141 知的な議論で相手に敬意を払うことは、たとえ渋々払う経緯であっても、大きな見返りをもたらすことがある。相手に寄り添おうとせず一方的に見下す文化においては、とくにそうだ。政治の場では、そしておそらくビジネスの場でも、対立する相手から心理的距離を保つことができない人、最高の選手が競技場に持ち込む明快で寛大な態度で相手に接することができない人が多すぎる。自分だけが正しいという思い込みは、目を曇らせ判断を誤らせる。ヴァネバー・ブッシュが1949年に指摘したとお理り、ナチスが近接信管の開発に失敗したのは、決して能力がなかったのではなく傲慢だったから。近接信管とは、砲弾が目標物に十分に接近したことを電波で検知して起爆する信管のことだ。ブッシュによれば、ドイツ人は自分たちの失敗したことにいまいましいアメリカ人どもが成功した事実をなかなか信じようとしなかった。

第11章 即興劇を演じるスタートアップ
官僚的な組織構造は創造性を殺してしまう。

p.83 現代の企業文化の重大な欠点として、組織構造や社内の階層が酷く硬直的で、新しい変化や課題に対応できないことが挙げられる。ピーター・ドラッガーは1988年1月にハーバード・ビジネスレビュー誌に論文を発表し、すぐにも新しいマネジメント・モデルがアメリカの主要企業と大規模な組織を支配するようになる。と述べた。...企業とのトップと創造性ゆたかな社員との直接的なコンタクトこそが重要であるというドラッガーの指摘は鋭い。ついでにいうとパランティアでも、最高に優秀なソフトウェアエンジニアは、画家や音楽と同じアーティストだ。無用に硬直的な階層的組織は、疏水sたタレントを本来の仕事に集中できなくしてしまう。

第14章 雲か時計か
同調主義やリスクを取ろうとしたないシリコンバレーの多くの起業家を批判している。これは、ピーター・ティールが自身のスタンフォードロースクール時代の師ルネ・ジラールの模倣によるリスクと共通する。人から攻撃されたくないから何もしないという現代の無責任な空気に対し、あえて批判を覚悟でリスクを取るカープの姿勢は尊敬に値する。

p.224 学習は模倣から始まるが、ある時点で模倣は創造性にとって有害になる。中には、創造にいたらない人もいる。もっともシリコンバレーでイノベーションとされているもののの多くは創造的というよりもむしろ、過去にうまくいったこと、少なくともうまくいったと思われることの複製にすぎない。これでもときには大きな身を結ぶことがある。だがだいたいにピテ、派生的にあるいは退化したものしか生み出さない。有能な投資家や起業家はその違いに敏感で、過去の成功の不完全なイミテーションを作ろうとする衝動には断固抵抗する。

ところどころ、安全保障上の日本への言及もあった。例えば、戦後、平和主義によって「弱体化」した日本やドイツの現状に対し、政治指導者は国民の武力アレルギーを払拭し、勢力均衡に貢献すべきなど。

 

「経営戦略の進化(琴坂将広)」を読んだ

これまでポーターによる「外部市場における競争論」や、バーニーらによる「内部資源に基づく競争論」が、経営戦略の2大セオリーとして君臨してきたが、本書はこれらのセオリーの次を以下の4つの観点から検討する書籍となっている。

str.toyokeizai.net


・実践行動としての経営戦略:戦略をいかに実行し、いかに実践するかというミクロな事象
・多層的境界の戦略:所有、統治、協業といった多層的組織境界、すなわち「外部と内部の中間領域」における関係性を戦略の中核に据える。
それぞれの観点のうち、特に印象に残ったものを中心にまとめていこうと思う。

※ちなみに、経営戦略の定義としては、「特定の組織が、何からの目的を達成するために、外部環境と内部環境分析から作り出した道筋」という定義が広く受け入れられる定義だという。

第2章 経営戦略前史

p.103 (ホーソン実験)これらの発見は、テイラーの科学的管理法では説明できない現象であった。物理的な作業条件の改善ではなく、労働者が注目され、期待されているという心理的要因が生産性を左右していたのである。すなわち、自分たちが選ばれて実験に参加しているという誇りと責任感、経営者や研究者が自分の仕事に関心を持っているという喜び、そして職場における人間関係の質が、組織の成果を決定的に左右することが示唆された。...これらの発見は、人間を機械の部品のように扱うテイラー主義への根本的な批判となった。人間は経済的インセンティブだけではなく、社会的欲求、承認欲求、帰属意識などの複雑な動機によって行動することが科学的に証明されたのである。

第3章 経営戦略の黎明期
面白い。フレームを自ら生み出すことで再現性を持って経営戦略コンサルを可能にする。

p.145 マッキンゼーは「グレイ・ヘア・コンサルタント」と呼ばれるような、豊富な経験や知見を有する年長者に依存していた戦略コンサルティング業務を、ビジネススクールの卒調整を中心とする若手でも実行できるように定式化し、それによる積極的な事業拡大を実現した。... 定式化した経営診断、数値と分析を重視した論理的な戦略検討、若手層の大量採用により、老練な熟練コンサルタントの技量に稼働に依存し、大組織化が難しかった戦略コンサルティングの事業領域において急成長を果たしたのである。

第4章 外部環境分析

産業構造を取り巻くマクロ要因を理解する上で、PESTLE分析(T=techology, E=environment)が重要。

p.226 効果的なPESTLE分析を実施するには、5つの段階的なアプローチが推奨される。
①政治的要因から始まり、組織に潜在的に影響を与える可能性のあるトレンドを特定する。
②チームとの議論を通うじてこれらの影響の組織への示唆を検討する。
③関連する発見事項を戦略的仮説として記録する。
④次のPESTLE構成要素に進む
⑤この一連のプロセスを6~12ヶ月ごとに繰り返し、絶えず新鮮な環境理解を組織に促す。

不確実性に備えるためには、リアルオプション戦略も有効である。

p.235 リアルオプション戦略の基本的な考え方は、新規事業を一度に巨額投資するのではなく、小規模な実証実験に投資して市場の反応を見る、技術標準が定まるまで待つ、有望なら追加投資して失敗なら撤退するといった戦略的選択肢を事前に設計することである。

リアルオプションは「情報を集めるために投資を待つ(待機オプション)」ことを正当化する。しかし、これが実務では「単なる決断の先延ばし」や「直面するリスクからの逃避」の免罪符として悪用されるリスクがあることや、将来の工場建設のために土地を確保し続けたり(手付金や賃貸料)、ライセンスを維持し続けたりなどオプションとして持ち続けるためのコストが存在することデメリットもある。

 

第5章 内部環境分析
BCGの米国市場の成功は外部市場の構造的な分析でまとめれているものの、それだけでは実態を単純化させてしまうのではないか?

p. 253 BCGレポートは、英国の自動二輪車産業の衰退を市場シェアと利益率の低下から分析し、その要因を競合他社と比較した際の技術開発、販売、製造におけ規模の経済の不足であると説明していた。特にホンダの成功については、母国市場での成功により規模の経済を享受し、その価格優位性を小型から中型、大型製品へ段階的に移転させた戦略成功例として位置付けていた。...しかし、パスカルはホンダの日本人経営陣6名に対する詳細なインタビュー調査を通じて、ホンダの米国参入は「誤算、偶然の産物、組織学習」によって特徴づけられるプロセスだったという。具体的には、ホンダは当初250ccと305ccの大型バイクで米国市場に参入しようとしたところが、機械的なトラブルに見舞われて失敗し、やむを得ず50ccのスーパーカブを市場に投入したところ、予想外の成功を収めたという経緯があった。

第7章 実践・行動としての経営戦略
経営者の感情は経営戦略や組織運営に大きな影響を与える。

p.350 高ナルシズムのCEOは、企業業績が目標を上回る状況において、自己顕示欲と注目を集めたいという個人的な動機から、より多くの企業買収を行う傾向がある。...こうした力強利意思決定を行う組織の経営判断の背景を検討する際には、その組織の責任者、経営者個人の資質や個性を踏み込んで理解する必要があるという理解が一般的となりつつある。重要なのは、戦略的意思決定が「認知的」であると同時に「感情的」な営みとして認識されるようになったことである。...ローレン・ゼッテルは、起業家を対象とした10日間の日記研究により、レジエンスが高い個人は日々の感情変動が低いことを明らかにしたこれは、レジリエントな個人が単に平均的により多くのポジティブ感情を経験するだけではなく、感情の自己調整を通じて安定した感情状態を維持することを示唆している。

第8章 多層的境界の戦略
エコシステム戦略とは、自社単独ではなしえなかった新たな価値を他社との連携によって可能にするものである。

p.405 一方、構造的視点は「ある価値提案を実現す流ために、どのような企業がどのように協力する必要があるか」という設計と管理に戦略的焦点を移したのである。テスラの電気自動車はエコシステムを例に例えると、同社は「持続可能な交通手段の実現」といいう価値提案から逆算して、バッテリー技術企業、充電インフラ事業者、再生可能えねるぎー企業...まで含めた協力構造を意図的に設計している。

第9章 非市場・制度戦略
昨今の経営戦略においては、非市場戦略も重要な重要となってきている。
その土台となったのが、1970〜80年代の経済学であり、シカゴ学派のジョージ・スティグラーを中心に「規制は公共の利益のためではなく、既存の有力企業が自らの利益を守り、参入障壁を作るために政府に働きかけて作らせるものだ」という考え広まる。

その後、スタンフォード大学ビジネススクールの教授であったバロンを中心に、「市場戦略(製品や価格での競争)」と「非市場戦略(法改正の働きかけや世論形成)」は地続きであり、同時に計画されなければならないと主張する学者が出てくる。

p.458 1990年以降、組織の外部環境にある政府規制や社会的規範といった市場以外の制度的要因が企業行動を大きく左右されることが認識し始めた。...たとえば、食品メーカーにとって肥満や健康問題は重要な「課題」である。再生可能エネルギー企業にとっては、経済産業省だけではなく建設許可を出す地方自治体や、紛争を処理する司法も、重要な「制度的主体」となる。バロンの研究は、これまで前提条件として扱われていたこれらの環境要因を、戦略的に操作するべき変数として再定義した。

p.463 第2の背景としては、非市場戦略が決定的に重要となる新たな競争戦略の出現である。バロンの非市場戦略概念は、1990年代中頃から世界経済の重要な参画者となった移行経済諸国・新興国において、極めて重要な意味を持った。これらの国々では公式な制度が十分に整備されておらず、非公式な制度も固有の特性を持ち、先進国とは異なる経済環境を形成していた。企業が取り巻く制度的環境が、企業の成功の可否に決定的な影響を及ぼす現実が、新興市場において顕著に現れたのである。

p.466 非市場戦略の重要性を決定的に示したのは、UberやAirbnbのような規制産業領域において急成長したプラットフォーム企業の成長だった。...同社は、各都市で影響力のある法律事務所やコンサルティング会社と契約し、地方議員へのロビー活動、住民を巻き込んだ草の根キャンペーン、そして、規制当局への挑戦的な訴訟戦略の組み合わせだ。

 

「Michael/マイケル(アントワーン・フークア)」を観た

映画『Michael/マイケル』全国公開決定 | 木下グループwww.michael-movie.jp

・マイケルジャクソンの親戚に当たるジェファー・ジャクソンの完璧にマイケルを憑依した姿、本当に素晴らしかった。何度も泣いたし、これからも何度も見たいと思った作品。
・結局、マイケルもジャネットも父親の過剰な指導と厳しさがあまりに決別してしまうけど、それでもマイケルの才能を早期から見極めて、幼少期からトレーニングを受けてデビューさせたのは父親でもあるから、彼あっての成功でもあった。単なる父をマイケルの敵として描くのではなく、こういう複雑な構図をちゃんと描いていたのもとても良かった。
・良い曲を作るために、良いパフォーマンスをするために、マイケルは自由であることにこだわった。アーティストたるものこれまでなかった世界観や感覚を曲にしていく必要があると思うんだけど、それをするために自由は欠かせなかったのだ。別にこれはアーティストに限らず、仕事やコミュニケーションを通じて表現をする上で、生を受けた一人一人がこういう感覚を持つ必要があるのだと思う。これがこの映画を見ていて感じた一番のtakeaway.

「コンパウンドグロース投資(阿部修平)」を読んだ

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ジョージ・ソロス、ピーター・リンチ、ウォーレン・バフェット──レジェンドと呼ばれる投資家と親交をもち、ともに働いてきた日本人投資家が構造的な変化のタイミングで投資をするコンパウンドグロース投資について解説をしている本。自分自身は投資の手法について学びたいというよりかは、そもそも構造的な変化というのはどういうタイミングで起こるのか、またはその変化に対して、投資という形によってその変化をより起こりやすくすることができないのかを考えるために本書を読んだ。

p.8 「コンパウンドグロース投資」とは、「層」が次の層に変わったり、複利的に新しい層を生み出したり、あるいは作り替えのタイミングに投資することである。その投資行為とは、人類の社会を前に進めることにお金で参加することを意味する。それが、結果的に金銭的なリターンを伴ってくる。
p.95 戦後日本は、まず政・官・財が一体となって、いわば国策として大規模な製造業社(自動車や電機など)に資源を集中投下し、輸出を回していくことで行動経済成長を成し遂げました。いわば、「日本株式会社」という一つの期間が支配していたわけですが、この仕組みがプラザ合意によって円高へと誘導したことで、完全に崩壊してしまった。輸出で稼げなくなった以上、経済成長の主役は国内消費へと移っていく。

上記の文章を読んで、今も円安であるためある意味プラザ合意前の状態と状況は似ており、輸出産業にとってポジティブなのではないか?という気持ちもあるが、かつてとは違い日本の製造業の拠点は海外にあるため、あまりその恩恵を受けいにくいという状況にある。


ユニクロの成功に関しても、当然柳生さんの経営手腕もあったが、時代性が功をなした要素も忘れてはならない。

p.110. ユニクロにしてもニトリにしても、まるで日本人のライフスタイルの変化を先取りした投資のように見えます。というものも、阿部さんの本が出た4年後の2000年に大店法が廃止されています。規制緩和による日本の商習慣の変化とこれらの企業の成長がリンクしていますね。

三菱重工の株価はなぜ急騰したのか

p.139 環境で言えば、三菱重工で今、好調なのは、ガスタービンです。その背景は近年の正解的なCo2削減のトレンドである。ある日突然「これからは環境汚染はいけないよ」と言う制約がインフラに加わったことで、二酸化炭素の排出量を減らしつつ、ガスを使って発電するガスタービンの需要が急に高まったわけです。ところが、ガスタービンというのは、数億円規模の研究投資が必要な「超資本集約型」の部門なんですね。だから2000年以降、火力を使うガスタービンは古い技術渡明されて、欧米の企業などでは、だいたいリストラしてしまったんです。

また、かつての明治維新期の経済発展においても、コンパウンドグロースの方式に当てはめて考えられると言う。ジャレッド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」に通ずる部分がある。

p.206 官が最初にインフラを作り、民が産業を起こし、それが国家産業に波及していく。このやり方は19世紀のイギリスにおいて、グラスゴーやマンチェスターの炭鉱からロンドンまで鉄道を敷設して石炭を運んだのと全く同じなんですよね。つまり、「エネルギーx輸送インフラx作るもの=爆発的な産業発展」と言う方程式を明治維新の連中は知っていた。 産業を起こすと言うのは、「鉄」を作ることに他ならなかった。鉄こそが、国家の基盤資源であり、近代国家の軍事力、産業力、経済力は、鉄鋼生産力によって決まる。まさに「鉄は国家なり」だったんです。

産業連鎖をどのように起こすのか?

p.239 まずラピダスを中心として、ラピダスが必要とする部品や技術を提供する下請けの企業ができていますよね。それからすでに46社もの関連企業が動き出していますが、ここに工場だけではなく、研究、開発、人材育成が一体となった「産業クラスター」を形成することが重要です。そこからイノベーションの連鎖的システムが生まれてくる。ラピダスに関係する社員が移り住んでくれば、家族も一緒に来るわけで、そうすると学校や病院が必要になってくる。

構造が変わるタイミングでその構造の中で、新しいニーズが生まれ、そのニーズを満たすために新たな産業が生まれる。それを下支えするのが投資であることが新ためて確認できる本だったし、その構造の元となるのが規制や今で言うと国際関係でもあることがとてもよく理解できたので、こういった分野の知識についてもちゃんと身につけていきたいと思った。